◆医薬品・製薬業界におけるDX推進のメリットと課題
新型コロナウイルス感染対策をきっかけに、さまざまな企業でDXの取り組みを加速しています。
この取り組みは、製薬業界においても広がってきています。製薬業界にDXが求められる背景には、何があるのでしょうか。ここでは製薬業界のDXについて、注目されている理由や取り組むべき分野・課題・メリットを解説し、併せて医薬品等のプロセス製造業向けERP生産管理システム「JIPROS」についても紹介します。
医薬品・製薬業界のDXには、さまざまな関連トピックがあります。なかでも特に深刻化しているのが、ジェネリック医薬品(後発医薬品)を中心とする薬の「供給混乱」問題です。
ここではまず、近年話題になっている医薬品の供給混乱を軸に、製薬業界が抱える問題とDXの必要性を解説します。
◇医薬品の「供給混乱」とは
医薬品の供給混乱とは、ジェネリックを中心とする医薬品の供給不足から、日本の社会に起こる以下のような悪循環の総称です。
1. 新型コロナウイルスの感染拡大や他社の供給停止などの要因で、医薬品メーカーに想定を上回る注文が入る
2. 医薬品メーカーでは全注文には対応できず、医薬品の出荷を調整せざるを得なくなる
3. 調剤薬局や医療機関において、医薬品の入荷量が著しく低下する
4. 医薬品不足から、医療機関における治療の選択肢が限られてしまう
5. 代替の医薬品や治療法を探すために、医療機関や調剤薬局の負担が大きくなる
6. 適切な治療ができないことで、新型コロナウイルスをはじめとする各種感染の拡大などが収束しづらくなる
7. 感染拡大が続けば、医薬品の需要は高まり続け供給混乱が起きさらに深刻化する
国は、上記の問題にブレーキをかける目的で、主要医薬品メーカー8社に対して2023年10月に緊急増産などの要請を行なっています。ただ、この要請によって増える供給量は1割程度です。業界内では、供給混乱が収束するまでに2~3年ほどかかるという見解もあります。
◇医薬品の供給混乱が起きた要因
供給混乱が起きた背景には、製造上の不正発覚によって複数メーカーが業務停止処分を受けたことなどが要因で、業界全体の生産量が低下している実情があります。
各メーカーにこうした問題が立て続けに起こった理由は、国が医療費を抑制するために “安さが売り”ともいえるジェネリック医薬品の使用を促してきたからです。
ジェネリック医薬品の需要が急速に高まるなかで、各メーカーでは生産体制の整備や設備投資が追いつかない問題が生まれやすくなりました。また、安価なジェネリック医薬品ではメーカー側の黒字化が難しく、製造・品質管理体制の整備に多くの費用をかけられなかったことも、不正などが起こる一要因であると考えられています。
◇供給混乱の収束と製薬業界DX
今回の供給混乱は国の施策が引き起こしたものであり、医薬品メーカーの努力だけでは収束できない問題です。
ただ、今後も新型コロナウイルスのような感染症の拡大が起こり、医薬品の需要が急上昇する可能性があることを考えると、DXを通じて危機を防ぎ、医薬品を安定供給する仕組みの構築が必要となります。また、各メーカーの品質不正を防ぐうえでも、DXの仕組みを通じて現場力を高めていくことが大切です。
◇新型コロナウイルス(COVID-19)により、製薬業界が受けた影響と対策
新型コロナウイルス蔓延の影響で、患者数・病床利用率の減少、MR(医療情報担当者)ディティールの減少、これらによる売上の減少など、製薬業界も大きな痛手を負いました。
そのため、MR業務のデジタル化による業務の効率化やバーチャル治験など、製薬業界においてもデジタル化が進んでいます。特にバーチャル治験は創薬への変革を促し、遠隔化による感染拡大防止のほか、多くのメリットをもたらす取り組みです。
加えて医療現場では、スマートフォンやパソコンなどを活用したオンライン服薬指導なども実施されています。
◇バーチャル治験が製薬業界にもたらした影響とメリット
製薬業界におけるデジタル化は、創薬の課題でもある事業コストを軽減し、感染症対策としてのバーチャル治験を実現しました。バーチャル治験とは、被験者が来院することなくインターネットに接続された端末を用いて受けられる治験です。
これにより、来院が難しい患者でも、オンライン診療を利用して治験に参加してもらうことで、感染拡大防止につながりました。
加えて、独自のAIに基づく創薬技術により、短期間で効率良く医薬品を開発することが可能になって、創薬技術の向上にもつながっています。
そしてAIを導入することでビックデータの分析も進み、効率的な研究開発と開発コストの軽減を実現。新しい医薬品の価格を抑えることが可能になりました。
◇製薬業界DX導入のメリット
製薬業界のDXがもたらすメリットの一つが、患者の利便性向上です。例えばIT導入により、処方箋を非対面で受け取ることも可能になりました。
また、生産管理を拡張するなかでDXを導入することは、業務効率化にも効果があります。具体的には、医薬品製造における正確な在庫管理に加え作業に関するさまざまな工数やコスト削減といったメリットがあります。
さらに、災害などの緊急事態が発生したときに、クラウド基盤等を活用することで事業を継続または復旧する際にも有効です。
そして、現実世界とは異なる3次元の仮想空間を使ったサービス「メタバース」を使ったものとしては、研究会や講演会などのイベントをメタバース上で行なう取り組みがなされています。対面が困難な場合での、患者・医療従事者・製薬会社の双方向のコミュニケーションの構築が期待されています。
また、AI(人工知能)やVR(仮想現実)によるAI創薬のほか、研究開発における多くの成功事例も寄せられています。
◇製薬業界のDX化と手作業による業務の課題
製薬業界では、このようにDX化が加速している一方で、まだまだ手作業に頼る部分が多いのも現状です。
例えば、製薬業界の生産管理では人為的なミスは大きな問題にもなるものであり、課題といえます。有効期限やロット番号などの印字(ラベラー)は、自動化されていない場合、人の手により有効期限やロット番号を登録して設備が動きます。
最近では、生産管理の拡張におけるDX推進の一つとして、製造指示情報からPLC(プログラマブルロジックコントローラ)を経由して設備に情報をセットして自動化するという検討がされています。
それでは、工場の生産ラインの各部分とリンクすることで、工場の作業を管理する「製造実行システム(MES)」はどうでしょうか。フルMESシステムではこのあたりをほとんど自動化していますが、中堅企業ではMES化よりも手動管理が多いようです。
さらにこれらの設備は、常に点検を実施し、完了していないと商品を製造してはいけないことになっていますが、今のところ、点検作業はどうしても手動管理によるところが多くなっています。
また、新薬開発にも、多くの課題が残されています。薬価改訂や、特許切れ後のジェネリックとの闘いなど、厳しいものがあるのが現状です。さらに、新薬開発の成功確率は3万分の1ともいわれており、年月とコストがかかる新薬開発は、難易度を増しています。
これらの創薬プロセスにおいても、まだまだ人の手によるアナログ作業が残されています。このように、製薬業界の現場はDX化が難しい世界でもあるのです。
中堅プロセス製造業のために開発された統合管理パッケージ「JIPROS」は、医薬品・化粧品・食品製造業に必要となる標準機能を装備しております。JIPROSの機能を最大限活用し、実際の業務運用を検証しつつ生産モデルを確定していくことで、短時間・低価格・ローリスクでの導入が無理なく行なえます。
昨今、製造業にてDX推進が求められるなかで、まずは工場内データを一元管理することで、生産・コストおよび販売情報の見える化を実現します。
新型コロナウイルス蔓延の影響もあって、DX化が目覚ましい製薬業界ですが、一部では手作業に頼らなければならない部分も多く、まだまだ解決しなければならない課題が残されています。
製薬業界でDXが求められている理由をあらためて見つめ直し、事例も参考にしながら一つひとつの課題に取り組んでいきましょう。