◆医薬品の生産管理に欠かせないバリデーションとは?実施方法と課題について解説
患者の命と健康を守る医薬品には、確かな品質と安定供給が期待されており、そのため製薬会社には適切なバリデーションの実行が求められます。
しかし、バリデーション作業を高い精度、かつ低コストで実施することを課題とする製薬会社は多いでしょう。
そこで今回は、医薬品の適切な生産管理のためにバリデーションが求められる理由と課題について解説します。
バリデーションは、医薬品・化粧品業界において生産管理のための重要な工程です。ここでは、バリデーションの概要と必要とされる理由について解説します。
◇バリデーションとは
バリデーションとは「あらかじめ定められた規格と品質に適合する製品を恒久的に生産できることを証明し、文書化すること」を指します。つまり、製品を繰り返し製造しても、期待した品質を継続的に生産できることを保証するものです。
バリデーションは厚生労働省の「GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)」で、実施が定められています。「GMP」とは製造者が遵守すべき製造管理、品質管理の基準のことで、その内容を明文化したものを「GMP省令」です。
患者の命にかかわる医薬品製造を担う製薬会社は、新薬、ジェネリック薬にかかわらず品質維持のためのバリデーションを実施しなければなりません。
高品質の医薬品を恒久的に生産するために、バリデーションの実施対象には以下のものが含まれます。
◇医薬品の生産管理にバリデーションが必要な理由
医薬品の製造にバリデーションが求められる理由は、その性質上、全数検査を行なえないためです。
例えば、電化製品は出荷前に電源を入れ、正常に作動するかチェックすることが可能ですが、製造された医薬品は有効成分の含有量や効能について、出荷前にすべての製品を検査することができません。
そのため、製造過程や工程、手順などを厳しく検証して、製造ラインを稼働させても期待した品質の医薬品が製造されると保証する必要があります。そのためにバリデーションが必要とされるのです。
バリデーションが必要とされるのは以下のケースです。
医薬品の安全性は患者の命や健康に直結するため、その安全性を担保するバリデーションの工程や実施方法については、細かく規定されています。
ここでは、バリデーションの実施に必要な工程と実施方法、その目的について解説します。
◇適格性評価
適格性評価は、医薬品を製造する設備や支援システムが、適切に作動することを評価する作業です。適格性評価には、以下の4つのステップがあります。
1. 設計時適格性評価(DQ)
設計時適格性評価設備とは、装置やシステムが本来の目的に沿った用途として適切であることを確認し、文書化することです。つまり、設備や機器が求められる品質の医薬品を製造できる機能や、仕様を有しているかを検証する作業です。設計時適格性評価で作成された仕様書に基づいて、この後に続くバリデーションの各工程の確認事項が決定します。
2. 設備据付時適格性評価(IQ)
据付けまたは改良した装置やシステムが、承認を受けた設計や製造業者の要求との整合性を確認し文書化することです。据付けられた装置や機器の仕様は適正か、機器の納品時に破損や汚れはないか、温度や湿度は適切かなどを確認します。
3. 運転時適格性評価(OQ)
据付けまたは改良した装置やシステムが、あらかじめ意図したように作動することを確認し文書化することです。作成された仕様書に基づいた能力を発揮し、期待どおり作動するのかを検証し記録します。
4. 性能適格性評価(PQ)
設備および付随する補助装置やシステムが、承認された製造方法や規格に基づき、効果的かつ高い再現性で機能できることを確認し文書化することです。
◇プロセスバリデーション
プロセスバリデーションとは、「工業化研究の結果や類似製品に対する過去の製造実績等に基づき、あらかじめ特定した製品品質に影響を及ぼす変動要因(原料及び資材の物性、操作条件等)を考慮した上で設定した許容条件の下で稼動する工程が、目的とする品質に適合する製品を恒常的に製造するために妥当であることを確認し、文書化すること」です。
方法は製品を3ロット以上生産し、そのすべての製品の品質をチェックします。3ロットすべての品質が、設定した基準をクリアしなければなりません。1ロットでも不合格になれば、再度3ロット連続で生産して品質を再チェックします。
2ロットの生産では、プロセスの安定性や恒常性を十分に確認できないとされています。3ロット以上製造することで、ロットごとのデータのばらつきがどの程度の範囲内に収まるかを確認できるのです。
◇バリデーションマスタープラン作成
多数の機器や設備を同時に制作する場合などバリデーションの対象が広く、計画書が複数ある大規模なプロジェクトでは、バリデーションマスタープラン(VMP)を作成します。
VMPはバリデーションの組織や対象となる機器や設備、作業内容、スケジュール、文書の様式などを記載した、プロジェクト全体の品質保証計画です。管理者をはじめプロジェクトメンバーにVMPが共有されることで、スムーズに作業が進むでしょう。
VMPは基本計画段階で作成して、バリデーションの方針を具体化します。
高品質の医薬品を恒常的に生産管理するために欠かせないバリデーションですが、実施には多くの時間と労力がかかります。そのため、実施する際にリソース面やコスト面で課題を抱えている企業も多くあります。
◇リソース面
バリデーションは、厚生労働省が定めたGMP省令に基づき実施しなければなりません。専門的な知識や技術、ノウハウを必要とするため会社のリソースを圧迫し、ほかの業務に支障をきたす可能性もあります。GMP省令が改正されれば、その都度新しい対応が迫られるでしょう。
また、バリデーションは一度実施しただけでは終わりません。製造手順や原料など品質に影響を与えるおそれのある変更がなされた場合は、再度バリデーションを実施して品質をチェックする必要があります。
◇コスト面
バリデーションの実施には、コスト面も大きな課題となります。望んだ結果が出ない場合は製造ラインの見直しや改良が求められるためさらにコストがかさみ、製品の価格を高騰させるおそれもあります。
バリデーションはその製品の製造を終了するときまで、継続的に実行しなければなりません。バリデーションを実施する際は、自社のリソースや予算への影響などを考慮した、長期的な計画が必要です。
バリデーションは、安全と安定供給が求められる医薬品の製造に欠かせない工程です。バリデーションを適切に実施することで、全数検査のできない医薬品の品質を保証できます。
しかし、リソースやコスト面で負荷が大きいなど、バリデーションの実施には多くの課題があるのも事実です。
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